1974年生まれ、新進気鋭の作曲家・広瀬勇人氏の吹奏楽曲は、極小編成〜小編成の作品を数多く作曲しています。歴史やファンタジーの世界観を音楽で表現することに長けている広瀬作品。初心者バンドでも演奏しやすいグレードの楽曲も多数あり、プレイヤー歴が短い人にも「吹奏楽の楽しさ」を教えてくれるでしょう。
この記事では、広瀬氏の作曲家になるまでのエピソードとともに、近年の吹奏楽コンクール自由曲やコンサートレパートリーとして人気が高い6作品を紹介します。
道を拓く~ホルン奏者の夢から吹奏楽作曲者へ
広瀬勇人氏は、”日本人初のヤン・ヴァンデルローストの弟子”として知られています。しかし、そこにたどり着くまでには紆余曲折がありました。
高校時代、ホルンに魅了された広瀬氏はプロを目指します。ここでうまくいかなかったことが”作曲家広瀬勇人”を生みました。
”あまり興味がなかった”作曲を専門学校でとことん勉強。首席で卒業後は、ボストン音楽院に進みます。しかしそこでも、クラシック(現代音楽)作曲で自身の限界を感じます。
そこで立ち止まらず、管楽器の作曲家を目指して、ヤン・ヴァンデルロースト氏本人に猛アタック。吹奏楽作曲で世界的に有名なヤン・ヴァンデルロースト氏の元で学びながら、「音楽はその人自身を写す」と強く意識するようになりました。
自らの手で道を拓いてきた広瀬氏。小さなものにも喜びを感じるようになった広瀬氏の音楽は「無理なくよく鳴る」として定評があります。低音管楽器や打楽器が活躍する曲が多いのも特徴です。中低音パートやパーカッションパートに存在感があるバンドにおすすめです。
広瀬勇人 人気吹奏楽作品
ウルクの王:The King of Uruk
2022年フォスターミュージックへの書き下ろし、翌23年の吹奏楽コンクール自由曲の人気作品となりました。
古代メソポタミア文明のウルクという街の王、ギルガメシュ(紀元前2600年頃~)の半生を描いた楽曲。世界最古の文学「ギルガメシュ叙事詩」の主人公として広く知られ、伝説的な英雄かつ暴君のギルガメシュの以下の様な情景が、ドラマチックで色彩豊かに表現されています。
最小12人の極小編成から35人を超える大編成まで演奏可という、プレイヤー人数に柔軟に対応できるのも魅力の一つ。いずれの編成で演奏しても演奏効果が高く、無理なく響くオーケストレーションが特徴です。クラリネット、フルート、アルトサックス、トランペットがソロで存在感を放ちながら、中低音パートや打楽器パートが楽曲全体を分厚く支え、荘厳な印象をもたらします。
オルフェの竪琴: The Lyre of Orpheus
母校尚美学園の委嘱を受け、ギリシャ神話のオルフェウスの逸話をもとに広瀬勇人氏が作曲した作品です。妻を失って悲しみにくれるオルフェウスが勇気を出して冥界へと進み、冥界の王の前で竪琴を演奏、妻を連れ戻す許しを得ます。喜んで地上に急ぐ2人。しかし、あと一歩というところでオルフェウスは妻を振り返り、妻は再び冥界へと沈んでいきます。悲しみと喜びが現れる、ドラマティックな曲です。
こもれびの坂:The Leaves and Sunshine
最低8人で演奏可能の吹奏楽作品ですが、”工夫によってはそれ以下でも演奏可能”と広瀬勇人氏が記しています。グレードも抑えてあるので、楽器を始めたばかりの人でも演奏しやすいだけでなく、経験を積んだ人が丁寧に作り込むことで新たな発見ができる楽譜となっています。
木が生い茂る緩やかな坂を行き交う人々を描いた作品は、こもれびの中をさわやかに吹き抜ける風を運んでくることでしょう。
こびとの森: Dwarf’s Forest
こびとが住むといわれる北海道の森をイメージした吹奏楽作品。さまざまなテンポが現れるファンタジックな一曲です。
最低9人で演奏可能でグレードも抑えてあるため、楽器を始めて間もない人が多い小さな吹奏楽団でも演奏することができます。キラキラとした音色で吹奏楽を楽しんでほしい作品です。
夢幻の如くなり(ゆめまぼろしのごとくなり): Like a Vain Dream
2016年発売。2015年名古屋市立伊勢山中学校吹奏楽の委嘱で作曲されました。織田信長が好んだ謡曲「敦盛」。その一節をタイトルにしたこの曲は、「信長の出発点とも言える桶狭間の戦いでの勝利をイメージしたもの」と広瀬勇人氏は記しています。
小編成でも、重厚で壮大な音楽を聴かせられるというのが、まだ小さかった信長軍に通じるところでしょうか。最小11人で演奏が可能ですが、中大編成になれば、吹奏楽としてさらに迫力のある曲になるでしょう。広瀬氏らしい、重低音の管楽器が活躍する作品です。
3つのアメリカの風景: Three American Landscapes
開拓時代の古き良きアメリカをイメージして作られた3部構成の吹奏楽曲は、小編成でグレード3ながら、伸びやかで雄大な印象を与えます。どこか懐かしさを感じさせるメロディーは、聴く人にすんなりと届き、気持ちよさを感じさせます。
日常をいとおしむ広瀬勇人氏の優しさが表現された作品で、聴いていると思わず深呼吸をしたくなる曲です。
低音を響かせる広瀬勇人氏の吹奏楽曲にトライ!
挫折をしても道を切り拓き、夢の形を変えて音楽の世界で活躍する広瀬勇人氏。その前向きで若々しい精神が、楽曲にも現れています。
低音の管楽器がしっかり働くことで、曲全体が聴きやすかったり、ドラマティックになったりということを実感できるのが広瀬氏の吹奏楽曲。少人数でも吹奏楽の醍醐味を教えてくれる広瀬氏の曲にぜひトライしてみてください。
吹奏楽を柱とした音楽出版社として2008年に設立いたしました。 「フォスター」という単語には、育てる・育成するといった意味があり、日本の吹奏楽をもっと元気に楽しく発展させていきたいという思いをこめています。みなさまのブラバンコンシェルジュとして、様々な情報を発信していきます。