シュピール室内合奏団
シュピール室内合奏団は、フルート、クラリネット、サクソフォン2本、ホルン、ユーフォニアム、テューバ、ピアノという8人編成のユニークな室内吹奏楽団です。
テューバ奏者の本橋隼人さんと作編曲家の高橋宏樹さんを中心に、「吹奏楽の名曲をよりたくさんの人に伝えたい」という思いから2010年に結成されました。わずか8人で木管アンサンブルでも金管アンサンブルでもない新しいスタイルの吹奏楽サウンドを創り出し、結成翌年の2011年にはヤマハ音楽支援制度の対象団体に選出されるなど早くも注目を集めました。
自主公演のほか学校の芸術鑑賞会や地域イベント、被災地の吹奏楽部を訪問してのクリニック&合同コンサートなど、幅広い場で演奏活動を展開しており、壮大なクラシックからカジュアルなポップスまでさまざまなジャンルをこなし、コンサートでは観客との一体感を何より重視するスタイルです。極小編成でありながら大編成に遜色ないアコースティックサウンドを実現し、斬新な編成による見事なアレンジで聴衆を驚かせています。
アレンジャー: 高橋宏樹氏と編曲陣
シュピール室内合奏団の特徴的なサウンドを陰で支えるのが、作編曲担当の高橋宏樹氏です。1979年東京生まれの高橋氏は、専門学校で映像音楽やビッグバンド編曲を学び、以後吹奏楽やアンサンブルの作編曲を中心に活動してきました。自身もピアノやトロンボーンの演奏経験を持ち、楽器の特性を熟知した上で編曲を行っています。その手腕は確かで、シュピール室内合奏団シリーズ全75曲の楽譜のうち大半の編曲を手がけ、芸術監督としてサウンドの要となっています。
高橋氏のほかにも、侘美秀俊氏、川北栄樹氏、小峰敦史氏、庄司燦氏、久保太郎氏といった作編曲家が参加しており、各アレンジャーが持ち味を発揮することでレパートリーに多彩な彩りを添えています。
シュピール室内合奏団シリーズ注目作品
シュピール室内合奏団シリーズから出版されている楽譜は現在全75曲(2025年5月現在)にのぼります。その中から特に人気の高い編曲作品や注目のオリジナル作品をピックアップしてご紹介します。
シュピール・シュタール・シュプール!|高橋宏樹
シュピール室内合奏団のために高橋宏樹氏が作曲した、いわば団のテーマ曲です。軽快で躍動感あふれる行進曲調の作品で、中間部ではフルートからテューバまでメンバー全員が順番にソロを披露し、各楽器の個性が光ります。
タイトルの「シュピール・シュタール・シュプール」はドイツ語由来の言葉遊びで、「シュピール(Spiel)」は団名、「シュタール」は「輝く」「一番」という意味、「シュプール(Spur)」は「軌跡」という意味を持ちます。第1テーマでは3つの力強い音型が鳴り響きますが、これは曲名の発音(シュピール・シュタール・シュプール)を音で表現したモチーフになっており、作品全体を通じて団の存在感と輝きを象徴しています。
- 作編曲: 高橋宏樹
- 演奏形態: 吹奏楽極小編成
- グレード: 3
- 演奏時間: 2分30秒
- 出版: アスクスウインズ(ASKS-SH36)
- 発売日: 2016/05/26
アルメニアンダンス・パート1|アルフレッド・リード arr. 高橋宏樹
吹奏楽の名作「アルメニアン・ダンス」パート1を8人編成で再現した意欲作です。原曲は大編成で演奏されるダイナミックな作品ですが、シュピール室内合奏団版では緻密な編曲により少人数でも厚みのある響きを実現しています。アルフレッド・リード特有のエネルギッシュな旋律美が損なわれることなく表現されており、その見事なアレンジはデビューCDにも収録され好評を博しました。シュピール室内合奏団の代表的レパートリーの一つです。
- 作編曲: アルフレッド・リード arr. 高橋宏樹
- 演奏形態: 吹奏楽(8パート)
- グレード: 4
- 演奏時間: 11分0秒
- 出版: アスクスウインズ(ASKS-SH32)
春の猟犬|アルフレッド・リード arr. 侘美秀俊
アルフレッド・リードが描いたエネルギーに満ちたコンサートピース「春の猟犬」も、シュピール室内合奏団によって極小編成アレンジされています。軽快なリズムと美しい旋律が特徴の原曲を8人で奏でるこの版は、各パートに見せ場があり小編成ならではのクリアなアンサンブルで曲の細部まで表現できます。原曲ファンにも新鮮に響く編曲で、テクニックと表現力の高さを示す一曲です。
- 作編曲: アルフレッド・リード arr. 侘美秀俊
- 演奏形態: 吹奏楽(8パート)
- グレード: 3
- 演奏時間: 9分20秒
- 出版: アスクスウインズ(ASKS-SH12)
歌劇「運命の力」序曲(原調版)|ヴェルディ arr. 久保太郎
劇的な展開で知られる名序曲ですが、シュピール室内合奏団版でも原曲のスケール感を損なわず見事に再現されています。編曲は「原調版」という名のとおりヴェルディのオリジナルの調性で構成されており、オーケストラ版の響きを極力そのまま小編成に置き換えることにこだわっています。編成上トランペットやトロンボーンは含まれませんが、ホルンやユーフォニアム、サクソフォンが巧みに代役を務め、ピアノも加わることで金管セクションの厚みや弦楽の躍動感を補完しています。
- 作編曲: ジュゼッペ・ヴェルディ arr. 久保太郎
- 演奏形態: 吹奏楽極小編成
- グレード: 5
- 演奏時間: 8分0秒
- 出版: アスクスウインズ(ASKS-SH37)
- 発売日: 2016/05/26
組曲「惑星」より「木星」|ホルスト arr. 侘美秀俊
大編成オーケストラによる荘厳な名曲を可能な限りオリジナルに忠実に8人編成へ凝縮。テンポやハーモニー、曲の構成は原曲そのままに、各パートの役割を8人で完璧に補完し合う編曲となっています。原曲の持つ魅力をそのままに小編成バンドで演奏できることを目指した明確な意図が感じられ、名曲を新鮮な感覚で味わえる見事なアレンジです。
- 作編曲: グスターヴ・ホルスト arr. 侘美秀俊
- 演奏形態: 吹奏楽(8パート)
- グレード: 5
- 演奏時間: 8分0秒
- 出版: アスクスウインズ(ASKS-SH27)
バレエ音楽「くるみ割り人形」 Selection|チャイコフスキー arr. 高橋宏樹
使用されている曲は「小さな序曲」「行進曲」「金平糖の踊り」「トレパーク(ロシアの踊り)」「花のワルツ」の5曲で、いずれも原作バレエ組曲の中でも特に有名なナンバー。
5曲からなるメドレーゆえ場面ごとのコントラストが大きく、次々と表情を変えていく展開が聴きどころです。短い時間でくるみ割り人形の世界観を存分に味わえる贅沢なセレクションです。
- 作編曲: ピョートル・イリイチ・チャイコフスキー arr. 高橋宏樹
- 演奏形態: 吹奏楽(8パート)
- グレード: 4
- 演奏時間: 6分10秒
- 出版: アスクスウインズ(ASKS-SH35)
宝島|和泉宏隆 arr. 小峰敦史
日本のフュージョンバンド「T-SQUARE」による人気曲『宝島』もシュピール版にラインナップ。原曲は明るくノリの良いラテンフュージョンナンバーで、吹奏楽ではアンコールの定番として親しまれています。シュピール室内合奏団版『宝島』では、軽快なサックスセクションや力強いユーフォニアムの旋律が映え、思わず体が動き出すような躍動感あふれるサウンドが魅力です。基本は管楽器7本+ピアノの編成ですが、パーカッションやドラムを加えることで、より一層楽しく華やかな演奏となるでしょう。
- 作編曲: 和泉宏隆 arr. 小峰敦史
- 演奏形態: 吹奏楽(8パート)
- グレード: 3
- 演奏時間: 4分0秒
- 出版: アスクスウインズ(ASKS-SH13)
バック・トゥ・ザ・フューチャー|ハンス・ジマー arr. 久保太郎
スティーヴン・スピルバーグ製作の有名映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年公開)のメインテーマ音楽を、久保太郎氏が吹奏楽極小編成向けにアレンジ。8人編成(フルート、クラリネット、ソプラノ&アルトサックス、ホルン、ユーフォニアム、テューバ、ピアノ)でも映画音楽の高揚感をしっかり表現できるよう工夫されており、ピアノがリズムセクションと管楽器の橋渡し役となってサウンドに厚みを加えています。映画音楽ファンにも吹奏楽ファンにも楽しめる、エンターテインメント性抜群のアレンジです。
- 作編曲: ハンス・ジマー arr. 久保太郎
- 演奏形態: 吹奏楽極小編成
- グレード: 3
- 演奏時間: 3分0秒
- 出版: アスクスウインズ(ASKS-SH56)
- 発売日: 2017/01/31
ジブリメドレー|久石譲 arr. 高橋宏樹
スタジオジブリ作品の名曲をつないだファン必聴のメドレー。ピアノを含む編成を活かして繊細に編まれたアレンジは、原曲の持つファンタジックな雰囲気を大切にしつつ吹奏楽アンサンブルならではの厚みのあるハーモニーを加えているのが特徴です。お馴染みのメロディが次々と登場し、コンサートのポップスステージを彩る定番プログラムとして人気です。
- 天空の城ラピュタより「空から降ってきた少女」
- 魔女の宅急便より「海の見える街」「ジェフ」
- 風の谷のナウシカより「王蟲との交流」
- となりのトトロより「ねこバス」「さんぽ」
- 作編曲: 久石譲 arr. 高橋宏樹
- 演奏形態: 吹奏楽(8パート)
- グレード: 4
- 演奏時間: 6分30秒
- 出版: アスクスウインズ(ASKS-SH09)
マードックからの最後の手紙(管7+Pf/シュピール室内合奏団 ver.)|樽屋雅徳 arr. 高橋宏樹
タイタニック号沈没事故のエピソードを題材に、乗組員マードックが家族へ宛てた最後の手紙をモチーフに描かれたこの曲は、哀感と勇気が交錯するドラマティックな展開が特徴です。静寂なピアノの序奏から始まり、クライマックスでは8人とは思えない厚みのあるサウンドで感情が最高潮に達します。物語性の深さとサウンドの迫力を両立させた秀逸なアレンジで、聴き手の胸を打つ名編曲と言えるでしょう。
- 作編曲: 樽屋雅徳 arr. 高橋宏樹
- 演奏形態: 吹奏楽(8パート)
- グレード: 4
- 演奏時間: 8分20秒
- 出版: フォスターミュージック(FME-0601)
- 発売日: 2024/05/22
まとめとアレンジ楽譜のご案内
8人編成とは思えないスケール感と、多彩なアレンジで吹奏楽ファンを魅了するシュピール室内合奏団。結成以来、その新感覚サウンドは各方面で高い評価を受けており、プロ奏者による小編成バンドのロールモデル的存在となっています。
大編成では場所や人数の制約で演奏が難しかった名曲も、少人数で挑戦できる点は大きな魅力です。記事で紹介した以外にもクラシック名曲の編曲やオリジナル作品が数多く出版されており、レパートリー選びに悩むバンド指導者やアンサンブル愛好家にとって心強いシリーズと言えるでしょう。また、これからの小編成吹奏楽の編成モデルとしても参考となるのではないでしょうか。
少人数でも充実した吹奏楽サウンドを楽しめるシュピール室内合奏団の世界に、ぜひ足を踏み入れてみましょう。吹奏楽の名曲たちが新たな輝きを放つはずです。
吹奏楽を柱とした音楽出版社として2008年に設立いたしました。 「フォスター」という単語には、育てる・育成するといった意味があり、日本の吹奏楽をもっと元気に楽しく発展させていきたいという思いをこめています。みなさまのブラバンコンシェルジュとして、様々な情報を発信していきます。