7月11日に発売開始となる木管アンサンブル作品「夜明け前のアンプロンプチュ」「黄昏アモローソ」の作曲家、井澗昌樹さんのインタビューをお届けします。
上野ウインドアンサンブルの委嘱で作曲され、それぞれ2018年、2019年のアンサンブルコンテストにて初演された木管アンサンブル作品です。
“夜明け前”と“黄昏”というタイトルからもイメージできるように、2曲は対になった作品とのこと。作曲当時のエピソードも含め、この作品に対する井澗さんの想いを語っていただきましたので、ぜひご覧ください!
記憶や想像による心象風景を音楽に
-アンサンブルコンテストの委嘱作品ということですが、具体的な要望などはありましたか?
編成のみです。要望は頂いておりませんが、立派なお肉を頂きました(笑)
-もともと2年続けてという依頼だったのでしょうか?
いえ、そういうことはありません。「夜明け前のアンプロンプチュ」を書き終えた後に「黄昏アモローソ」というタイトルを思い浮かべていましたが、編成が同じでなければならないということもありませんので(結果的に違う編成になりましたし)、何か機会があればこのタイトルで作曲しようと漠然と考えていました。
「夜明け前」の初演後、来年も…というお話を頂きましたので、綺麗な連作となりました。
-この編成での作曲にあたって特にイメージしたことや苦労したことなどがあればお願いします。
楽器そのものが持つ固有の音楽があると思います。アンサンブルの作曲では常にそのことを念頭に置いています。
苦労は書き始めることでしょうか・・この曲に限らずですが。
-タイトルがどちらも独特ですが、いつつけられたのでしょうか?なにか具体的な物語や映像作品など、影響を受けた作品はありますか?
「夜明け前のアンプロンプチュ」は作曲後にタイトルをつけたと思います。「黄昏アモローソ」は先ほど申し上げた通り、タイトルありきで作曲に臨んでいます。
広義に作曲という行為を指すならば、何も影響を受けていないなんてあり得えませんけれど、この2作品に関して何か関連付けられる芸術作品は特にありません。タイトルが持つ言葉のイメージや解説文に見られる心象風景、それらを冷静に音楽に置き換えるよう努めました。
-“夜明け前”と“黄昏”、いままで見た中で特に印象的なこの時間帯の風景はありますか?
私は自分の視覚をあまり信用していませんので、これと言った(現実においての)景色の記憶はあまりありません。感情と連動した映像はいくつか心に残っておりますが、心の有り様で景色が変わるとはやはり視覚だけでは何かが物足りないのでしょう。あくまでも人間や、その心の内を見ていたいと思っています。
人生を振り返れば「あの時が夜明け前だった」という時間がどなたにもあったと思います。静かな高揚と言って良いでしょう。これは記憶。逆に、今が黄昏時であるならば・・これは想像。自分の中にある記憶や想像による風景はいつだって印象的なものです。
-この曲を演奏する方たちへのメッセージやアドバイスをお願いします。
「夜明け前のアンプロンプチュ」は、快速部では一定した音楽の流れを大切に、その中で比較的息の長いオーボエ、アルトサックスのメロディに豊かな表情を与えてください。対して、緩徐部においてリズムを生み出しているのはハーモニーの推移です。伸縮性に富んだフレージングを演出していただければと思います。
「黄昏アモローソ」は、緩徐部、快速部ともに乾いた情感をイメージしています。クールに、ということではありません。空一面からあっという間に失われる鮮烈な “赤さ” はとてもショッキングなものです。やがて訪れる暗闇をイメージしながら、寂しげな音の綾を描いていただければ幸いです。
100年後200年後に遺る作品を
-今後の挑戦したいことなどがあればぜひおしえてください!
自分の作品が他人の人生に介入することを願いながら創作しているのではないかと感じることがあります。作曲家としての夢は?と聞かれれば、100年後200年後に一曲で良いから楽譜が残っていて欲しいということになるでしょうか。
もう少し間近の夢であれば、ある文学作品を用いた音楽を作りたいと思っているのです。題材は20年前から決まっているのですけれど、いつになるか・・。
-井澗さん、ありがとうございました。これからも詩的でドラマティックな作品を楽しみにしています。
木管アンサンブルの可能性を拓く
吹奏楽作品のみならず、木管アンサンブル作品を数多く世に送り出している井澗氏。なかでも3重奏作品は人気が高く「詩曲II」は、アンサンブルコンテスト全国大会でもしばしば演奏されています。
今作「夜明け前のアンプロンプチュ」、「黄昏アモローソ」も、木管アンサンブルの新たな可能性を感じさせる作品です。ぜひチャレンジしてみて下さいね!
夜明け前のアンプロンプチュ
夜明け前のアンプロンプチュ
- 編成: 木管4重奏(Ob. / Bb Cl. 1 / Bb Cl. 2 / A.Sax. )
- グレード: 4
- 演奏時間: 5分0秒
- FME-0424 フォスターミュージック
黄昏アモローソ
黄昏アモローソ
- 編成: 木管3重奏(Ob. / Bb Cl. / Bs.Cl. or Bsn. )
- グレード: 4
- 演奏時間: 5分0秒
- FME-0423 フォスターミュージック
井澗昌樹(いたにまさき)
大阪教育大学教養学科芸術専攻音楽コース卒業。同大学大学院芸術文化専攻修了。作曲を澤田博、北川文雄の両氏に師事。
主な作品に、バリトン独唱と管弦楽のためのカンタータ「倭建命 流離譚」、トランペット八重奏曲「四季の奏鳴」など。吹奏楽作品に、「火の断章」(2008年度全日本吹奏楽コンクール課題曲)、「Bye Bye Violet」、「愛の祭壇」など。
関西現代音楽交流協会、21世紀の吹奏楽“響宴”、各会員。
吹奏楽を柱とした音楽出版社として2008年に設立いたしました。 「フォスター」という単語には、育てる・育成するといった意味があり、日本の吹奏楽をもっと元気に楽しく発展させていきたいという思いをこめています。みなさまのブラバンコンシェルジュとして、様々な情報を発信していきます。