2010年に初演された髙嶋圭子作曲「トロンボーンとピアノのためのソナタ『風花賛礼』」。10年以上の時を経て、改訂版を出版する運びとなりました!この記事では、作曲者と演奏者による楽曲解説と演奏&インタビューを交えながら、この楽曲の魅力を深堀りします。
『トロンボーンとピアノのためのソナタ「風花賛礼」〈改訂版〉』
この曲はトロンボーン奏者 𠮷川武典の委嘱により髙嶋圭子が作曲した楽曲で、2010年7月の𠮷川氏のリサイタルで(ピアノ演奏:三輪郁)初演されました。𠮷川氏から「“ガッツリ”した骨のある作品にしてほしい」という要望を受けて、四つの楽章からなる「ソナタ」に至ったという本作品。
初版は、トロンボーンパートに演奏の負担が集中し、難易度が非常に高い曲になっていました。今回の改訂版では、楽曲の長さはそのままにトロンボーンパートとピアノパートの関係を見直し、より効果的に音楽が表現できるようになっています。
柔らかくて伸びやかな中音域、どっしりとした重厚な低音域など、豊かなサウンドを響かせることができるトロンボーンの魅力を余すことなく表現した楽曲です。
「風花賛礼」の「風花」とは、人と人との間に吹く風が様々な出会いをもたらしそれによって咲く花のことを指しています。この曲を演奏してくださる方、そして聞いてくださる方の心の中にも色とりどりの花が咲くことを願っています。
楽曲解説(演奏のアドバイス)
改訂版出版にあたって、髙嶋氏・𠮷川氏から楽章ごとに演奏のアドバイスをいただきました。動画と合わせてご鑑賞下さい。
第一楽章
序奏として奏でられる穏やかな旋律の反復は遠くから聞こえてくるように。その後に現れる主題は堂々と勇ましく演奏してください。
冒頭は時間を超えた遠いところから聞こえてくるような世界観、その距離感が出せるように。主部に入ってからは、和声感をしっかり感じながら難易度の高い分散和音の跳躍を演奏したいですね。
転調が繰り返されます、和声の見えない音程にならないように。前編に網羅されたクリアな場面でも歌が無くならないように気をつけて。
カデンツァからのゆったりとしたレガートは、束の間の安堵の場面。音色の変化が充分に得られるようにしましょう。最後の場面における音量の推移は、しっかりとコントロールして。
第二楽章 Nostalgia
遅過ぎず速過ぎず、内向的な世界観が醸されるテンポで。感情は充分に音色にのりながら、しかし余裕のない音量設定にならないように。途中ブレスが難しい場面でも、途切れたようにならないよう長いフレーズ感を保って。
短調ではありますが、それは悲しみの音楽ではなく望郷の念を表しています。ゆったりとした三拍子ですが停滞することなく静かに前へと進んでください。
第三楽章 Serenade
トロンボーンに弦楽器におけるチェロのような滑らかで軽快な旋律の動きを求めています。揺れ動きながら決して重くならないように旋律を美しく歌い上げてください。
細かい音からスタートし途中難易度の高い跳躍や転調もありますが、六拍子にならず必ず二拍子で進むこと。冒頭含めルバートが自由にかかっても、推進力が無くなったようにならず滑らかなレガートで進むように。エンディングは音量の意識以上に、音色の魅力が失われないことを大事に。
第四楽章
主題の性格を十分捉えて、決然とリズムを刻みながらも軽快さを失わないように演奏してください。テンポは早くなりすぎないように、しかし前へと進んでいく推進力を望みます。コーダでは、第1主題の冒頭部分が時折現れながら曲尾に向かっていきます。最後は朗々と高らかに歌い上げてください。
冒頭のグリッサンドはホルンのそれをイメージして。猪突猛進、滑りがちなテンポに陥りがちですが、ピアノの和音の粒が煌めきのように醸される、ある意味落ち着いたテンポがキープされるように。スライディングのクオリティの難易度が高い場面でも、音程は曖昧にならず的確に。
中間部のレジェロにおける上品で洗練、洒落た世界観から後半、そしてコーダからエンディングへと、長いフレーズの中での音量のクレッシェンドは充分に計算して。早くに盛り上がり過ぎて息切れになないよう、全体を見据えた盛り上がりこそを大切にしましょう。
全曲を通して
ピアノパートにはオーケストラ的な厚いサウンドを求めている部分が多いです。ピアノ奏者の方は、それらを楽譜から読み取った上で、しっかりトロンボーンパートを支えてください。
トロンボーンのあらゆる技術、音楽性が求められている規模の大きいソナタです。テクニカルで推進力の強い両端楽章に、心に染みる歌心に溢れたふたつの楽章が挟まれています。それぞれに相応しい音色の表出を意識してください。全編を通して大切にしたいのは、ソナタらしい構成力のある音量設定。賑やかさに終始しない、流れに相応しい盛り上がりを実現してください。
対談インタビューより
改訂版の発表にあたり、お二人のスペシャル対談が実現しました。一部抜粋してお届けします。
2010年の初演の時と今回の演奏では心境の変化はありますか?
書きたい音を描き込みすぎる傾向があるということを今回もう一度見つめ直し、さらに何度も音出ししていただきながら本当にこの曲に必要な部分を見極めて書き直していきました。
改訂版といっても曲が大きく変わったわけではありません。演奏がハードで効果を生みにくい部分があったので、それがより効果的になるように書き換えていただいたというだけであり、曲の本質は何も変わっていません。
私の作品に対して深い読み込みをしてくださるところはいつも本当に感謝しています。私自身が見つけきれていないところも「ここはこうですか?それとも〜」というふうなこともご指摘いただいたりしながら、より完成度の高いものができていったんじゃないかなと思います。
「風花賛礼」を演奏される方にメッセージをお願いします
トロンボーンという楽器は本当に豊かな音色を持っている楽器だと思います。たくさんのトロンボーン奏者の方に「風花賛礼」を吹いて、ぜひトロンボーンの良さを多くの方々にお伝えしていただけたらと思います。
一番願うことは、この作品が未来永劫残ってほしい。100年後のトロンボーン奏者もこの曲を演奏していてほしい。外国人演奏家が日本の作曲家のソナタを演奏してみたいと思ったり、日本人演奏家が外国で演奏したりするときにこの作品が演奏されてもらえたら嬉しいです。
そして、これから演奏家になりたいと専門的に勉強している人たちもこの高い難易度に取り組んでもらって技術や音楽性の向上に努めてほしいし、いずれコンクールの課題曲なんかにもなると良いなと思っています。
インタビュー動画では、この他、初演時のエピソード、作曲の依頼を受けてからどう書き始めたか、髙嶋圭子作品の世界観と魅力など盛りだくさんの内容となっています。是非ご覧ください。(17分ごろから)
プロフィール紹介
髙嶋圭子
𠮷川武典
楽曲情報
- 作編曲: 高嶋圭子
- 演奏形態: トロンボーンソロ
- グレード: 5
- 演奏時間: 17分0秒
- FME-0313(フォスターミュージック)
- 発売日: 2022/05/24
吹奏楽を柱とした音楽出版社として2008年に設立いたしました。 「フォスター」という単語には、育てる・育成するといった意味があり、日本の吹奏楽をもっと元気に楽しく発展させていきたいという思いをこめています。みなさまのブラバンコンシェルジュとして、様々な情報を発信していきます。