「飛龍の鵠(ひりゅうのくぐい)」は、明治維新・文明開化の題材に樽屋雅徳氏が作曲した吹奏楽曲です。そして、待望の<原典版フル演奏動画>が、名門・精華女子高等学校吹奏楽部の演奏で実現しました!
楽曲のテーマやストーリー、 編成人数や楽器構成、グレード、演奏時間など、演奏や鑑賞がより充実する情報をたっぷりまとめました。コンクール自由曲の選曲や楽曲分析のために情報収集をしている方、必見の解説記事です。
『飛龍の鵠』のテーマ
冒頭でご紹介した通り、この楽曲は近代日本が大きな変化を遂げていく”文明開化”。それまでの伝統・慣習を打ち破り、新たな社会と未来を築いていくために尽力した明治初期の偉人たちがテーマです。
タイトルの「飛龍」は、中国の韓非子の「飛竜雲に乗る」によります。「竜が大空を自由に飛び回るように、英雄が時勢に乗ってその才能や力を存分に発揮するたとえ」を表す故事成語から来ています。
「鵠」とは、弓の的の中心の黒い点のこと。「正鵠を射る(せいこくをいる)」は「的を得る」という表現と同様に、的に向かって一直線に飛び込む、物事の要点や核心を外すことなく、的確にとらえることを指しています。。
これらを組み合わせて【先見の明がある偉人たちの的】という意味を込めて「飛龍の鵠」というタイトルをつけたと、樽屋氏はライナーノーツで語っています。
ちなみに、英語版タイトルは「AIM OF THE GREAT FIGURES(偉人たちの目標・志)」というニュアンスです。
「飛龍の鵠」(原典版)は、2015年に作曲され、同年の全日本吹奏楽コンクールにて市立銚子高等学校(指揮:樽屋雅徳)が東関東大会にて金賞、鏡野吹奏楽団(指揮:弘田靖明)が全国大会にて銅賞を受賞し、2016年5月に出版されました。
初演から2年後の2017年。作曲者自身による大幅な改訂が加えられ、同年の全日本吹奏楽コンクールにて市立銚子高等学校(指揮:樽屋雅徳)が演奏し、第17回東日本学校吹奏楽大会にて金賞を受賞。その後、出版にあたり編成などを再編し「飛龍の鵠 改訂版」として2018年に出版されています。
音楽的特徴と表現技法
西洋化への過渡期を描いた楽曲にふさわしく、和と洋が交錯する躍動感あふれる構成になっています。タイトルの「鵠」は「白鳥」の意味を持つ言葉でもあり、大空を飛翔する勇壮な龍と優雅な白鳥を想像させるダイナミックな展開も、楽曲の魅力の一つです。
オープニングは、鳥がさえずるようなフルートソロ。静やかな木管アンサンブルを中心に奏でながら、次第に世の中の移り変わりを思わせる波が何度も押し寄せてきます。
テンポアップした中間部は、自分たちの信じる未来に向かって邁進する明治時代の礎を作った偉人たちの様子を金管パートと打楽器がエネルギッシュに表現します。火花を放つようなシンバルの音色が印象的に響く中で、新旧の衝突は激しさを増します。
その先にある希望の未来を見据える人々。太陽の光がゆっくりと差し込み大地に光がひろがっていくような、厳かな雰囲気の木管アンサンブルパートを経て、フィナーレにむけて木管・金管・パーカッションが一体となり、力強く駆け抜けていくようです。
この曲の演奏は、楽器がポイントです。
原典版(大編成)から改訂版(中編成)に編み直された時に12パートが減っていますが、ピアノ・ハープに加えて、原典版にはイングリッシュホルン、コントラバスクラリネット、アンビル。改訂版にはコーラングレ、クロテイル(アンティークシンバル)が含まれています。これらの楽器がない場合は、保有しているもので代用可能かも含めて、選曲段階で確認しましょう。
「飛龍の鵠」の編成(演奏人数)は?
「飛龍の鵠」には、原典版(大編成38人〜)と、改訂版(中編成26人〜)があります。団体の人数編成に合わせて最適なものを選びましょう。
原典版(大編成38人〜)
ピッコロ/フルート(1〜2)/オーボエ(1イングリッシュホルン〜2)/バスーン/クラリネット(E♭、B♭1〜3、アルト、バス、コントラバス)/サクソフォン(ソプラノ、アルト1〜2、テナー、バリトン)/トランペット(1〜3)/ホルン(1〜4)/トロンボーン(1〜3)/ユーフォニアム/テューバ/弦バス/ハープ/ピアノ/ティンパニ/パーカッション(1〜4)
○主要ソロ:オーボエ、ソプラノサクソフォン
○B♭トランペット最高音:High H
改訂版(中編成26人〜)
フルート(1ピッコロ〜2)/オーボエ(コーラングレ)/バスーン/クラリネット(B♭1〜3、バス、コントラバス※オプション)/サクソフォン(ソプラノ、アルト、テナー、バリトン)/トランペット(1〜2)/ホルン(1〜2)/トロンボーン(1〜2)/ユーフォニアム/テューバ/弦バス)/ハープ/ピアノ/クロテイル・ティンパニ/パーカッション(1〜3)
○主要ソロ:フルート、オーボエ、ソプラノサクソフォン
○B♭トランペット最高音:High H
詳細編成表を見比べる
セクション | 原典版(大編成38人〜) | 改訂版(中編成26人〜) |
---|---|---|
Flute | Piccolo 1,2 | 1 (doub. Piccolo),2 |
Oboe | 1(English Horn) 2 | 1 (doub. C.A.) |
Bassoon | 1 | 1 |
Clarinet | E♭ Clarinet B♭ 1,2,3 Alto Bass Contrabass | B♭ 1,2 Bass Contrabass (optional) |
Saxophone | S,A2,T,B | Soprano (doub. Alto Saxophone) A,T,B |
Trumpet | 1,2,3 | 1,2 |
Horn | 1,2,3,4 | 1,2 |
Trombone | 1,2,3 | 1,2 |
Euphonium | 1 | 1 |
Tuba | 1 | 1 |
String Bass | 1 | 1 |
Percussion | Timpani 1,2,3,4,5,6 | Crotales, Timpani 1,2,3 |
*使用楽器 | Percussion 1 Vibraphone, Anvil, 4 Tom-toms, Snare Drum Tam-tam Percussion 2 Bass Drum Percussion 3 Tam-tam, Suspended Cymbal Marimba,Crotales Percussion 4 Glockenspiel, Tambourine, Crash Cymbals | Percussion 1 Glockenspiel Anvil Tambourine Suspended Cymbal Tam-tam Vibraphone Percussion 2 Sizzle Cymbal Tam-tam Suspended Cymbal Anvil 4Tom-toms Snare Drum Marimba Percussion 3 Whip, Bass Drum |
ほか | Piano Harp | Piano Harp |
グレード(難易度)と演奏時間
原典版はグレード4+。演奏時間8分30秒。
2024年版は、グレード4+。演奏時間8分13秒です。
どちらも吹奏楽コンクールA部門の自由曲の規定時間内で演奏できる長さです。
作曲者は?
作曲家は樽屋雅徳。吹奏楽オリジナル楽曲です。
今回のピックアップ楽曲紹介
今回紹介した原典版と改訂版の楽譜情報です。スタディスコアや収録CDも合わせてご紹介します。
原典版
改訂版
『飛龍の鵠』演奏動画紹介
YouTubeで公開されている団体の『飛龍の鵠』演奏動画をご紹介するコーナーです。
こちらのページで紹介して欲しい、という団体様はぜひご一報ください→お問い合わせ
長野県上田高等学校吹奏楽団
東京国際大学吹奏楽団
この曲をもっと知りたくなったら
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また、YouTubeで公開されている演奏動画団体の聴き比べができるものもあるので、演奏イメージ作りにもお役立ていただけます。是非ご活用ください。
吹奏楽を柱とした音楽出版社として2008年に設立いたしました。 「フォスター」という単語には、育てる・育成するといった意味があり、日本の吹奏楽をもっと元気に楽しく発展させていきたいという思いをこめています。みなさまのブラバンコンシェルジュとして、様々な情報を発信していきます。