フォスターミュージックの人気吹奏楽曲の中から、版が複数ある楽曲にクローズアップして違いを徹底解説するシリーズ企画。今回は『November 19』(作曲:樽屋雅徳)です。
『November 19』には大編成版の他に、小編成で原曲のモチーフを使った別バージョンであるRevised Editionがあります。
この記事では、それぞれの版の編成・人数、演奏時間、グレードについて比較に加えて、版元ならではの情報もお届けします!どちらの楽譜を選ぼうか迷われている方は、ぜひ最後までご覧ください。
『November 19』はどんな曲?
この曲には、最初に出版された大編成版と、編成を小さくし原曲のモチーフを使った別バージョンであるRevised Editionがあります。
アメリカ合衆国大統領エイブラハム・リンカーンが、かの有名なゲティスバーグ演説を行った1863年11月19日。このエピソードがタイトル「November 19」の由来となっています。大きく分けて4つの場面で構成されており、南北戦争からリンカーンが暗殺され亡くなるまでのストーリーが1曲にまとめられています。
南北戦争は史上初めて近代的な機械技術が主戦力として投入されたとも言われています。ハイハットシンバルやアンビルなどのパーカッションと木管楽器の緊張感漂うリズムが近代的な戦争の情景を、早いテンポでの縦の揃った動きが統制の取れた凜々しい軍隊を想起させます。
また、リンカーンの静かに祈るような口調を思わせる穏やかなメロディーラインと、南北戦争の勝利の地とも言える「ゲティスバーグでの演説」という輝かしい側面を表す壮大な曲調も特徴です。
編成(演奏人数)は?
大編成版(37人〜)、小編成版(23人〜)があります。団体の人数編成に合わせて最適なものを選びましょう。
大編成(37人〜)
ピッコロ/フルート(1〜2)/オーボエ(1&コールアングレ、2)/バスーン/クラリネット(E♭、B♭1〜3、バス)/サクソフォン(ソプラノ、アルト1〜2、テナー、バリトン)/トランペット(1〜3)/ホルン(1〜4)/トロンボーン(1〜3、バス)/ユーフォニアム/テューバ/弦バス/ハープ/ピアノ/ティンパニ/パーカッション(1〜5)
○主要ソロ:フルート、ソプラノサクソフォン、B♭クラリネット
○B♭トランペット最高音:G
小編成(23人〜)
ピッコロ(フルート1)/フルート2/オーボエ/バスーン(オプション)/クラリネット(B♭1〜2、バス)/サクソフォン(アルト1(ソプラノ)、アルト2、テナー、バリトン)/トランペット1〜2/ホルン1〜2/トロンボーン1〜2/ユーフォニアム/テューバ/弦バス/ティンパニ、むち/パーカッション/ドラム/ピアノ
○主要ソロ:フルート、トロンボーン、トランペット、B♭クラリネット、オーボエ、ソプラノサクソフォン
○B♭トランペット最高音:A
詳細編成表を見比べる
セクション | 大編成(37人〜) | 小編成(23人〜) |
---|---|---|
Flute | Piccolo 1,2 | Piccolo(Flute1) 2 |
Oboe | Oboe 1,2 & Cor anglais | 1 |
Bassoon | 1 | 1 (optional) |
Clarinet | B♭ 1,2,3 Bass Clarinet | B♭ 1,2 Bass Clarinet |
Saxophone | S,A2,T,B | A1(Soprano Saxophone),A2,T,B |
Trumpet | 1,2,3 | 1,2 |
Horn | 1,2,3,4 | 1,2 |
Trombone | 1,2,3 Bass Trombone | 1,2 |
Euphonium | 1 | 1 |
Tuba | 1 | 1 |
String Bass | 1 | 1 |
Percussion | Drums 1,2,3,4,5(optional) | Timpani, Whip Drums 1 |
*使用楽器 | Percussion 1 Suspended Cymbals, Tambourine, Whip, Ratchet, Anvil, Tam-tam Percussion 2 Bass Drum, Castanet Percussion 3 Tom-toms, Snare Drum Percussion 4 Hi-Hat, Marimba, Xylophone, Vibraphone, Cymbals Percussion 5 (optional) Marimba, Xylophone, Vibraphone, Glockenspiel | Percussion 1 Marimba Bass Drum Catanets Tam-tam Suspended Cymbal |
ほか | Piano Harp | Piano |
グレード(難易度)は?
大編成版はグレード4+、Revised Editionもグレード4+となっています。
演奏時間は?
参考時間として大編成版は9分17秒、Revised Editionは6分53秒となっています。
吹奏楽コンクール自由曲として演奏する場合には、Revised Editionが適切な長さです。大編成版は制限時間の都合によりカットを施す際には場合は編曲申請をしましょう。
→編曲利用手続きページへ
楽曲解説
物語の始まりは<April 9, 1865>。美しくも切ない雰囲気を纏ったフルートのデュオから始まるこの曲。2本のフルートと伴奏のハーモニーが、夕陽を眺めながら思いを馳せるリンカーンを想起させます。メロディーが木管楽器に受け渡され、パーカッションと金管楽器が加わり次第に大きなエネルギーを含む壮大な音楽へと変わっていきます。
遠くから聞こえてくるスネアドラムに導かれ、場面は<April 12, 1861>南北戦争の回想へ。木管楽器の縦が揃ったユニゾンで一気に緊張感が走ります。
アクセントのついた八分音符の中で小さいクレッシェンドを繰り返し、緊張感を保ったままフルートとクラリネットのメロディーが曲を前へ前へと押し進めます。金管楽器の力強いフレーズと大砲を思わせるようなティンパニの迫力ある演奏が戦いの激しさを表現し、時折鳴り響くアンビルが不安感を煽ります。
サックスのソロとフルートのデュオが戦いの後の静けさを思わせるようにして場面転換。<November 19, 1863>、タイトルのゲスティバーグの演説です。リンカーンは約2分間という極めて短い演説で、米国のために命を賭して戦った人々への栄誉を讃えるとともに新たな自由の誕生を宣言しました。その演説を表すかのようにオーボエのソロが静かに響くと、戦争の終結を讃える壮大なメロディーを木管楽器が中心となって奏でます。
最後は、もう一度戦争の激しさを思い出させる力強い曲調から戦争の後の華やかな祝福を表すフレーズへと続き、<April 14, 1865>暗殺の日へ。リンカーンの生涯を讃えるように壮大でありつつも、暗殺という突然の死のごとく、わずか8小節で劇的な終焉を迎えます。
大編成版とRevised Editionの違い
Revised Editionはメインのモチーフを使いつつも、スピード感のあるフレーズで戦場の乱戦模様が際立っています。また、各場面がすっきりとまとまっていて場面の移り変わりが激しいので、緩急に富んだドラマティックな曲構成となっています。
また、ソロの数やパートごとの動きが多く、一つの楽器が目立つポイントが多いのも特徴です。
楽器に着目すると、大編成版ではオーボエが2ndまでありコールアングレが登場。ソプラノサックス、バストロンボーン、ハープも編成されています。パーカッションも5〜6人を要するので、楽器と人数が豊富な団体向けです。Revised Editionはアルトサックス1stがソプラノサックスに持ち替えてソロがありますが、その他のパートは小編成バンドの主要楽器編成です。パーカッションも2名で演奏可能となっています。
作曲者は?
作曲家は樽屋雅徳。吹奏楽オリジナル楽曲です。
作曲者のライナーノーツ(抜粋)
タイトルの「November 19」とは、1863年11月19日、ペンシルベニア州ゲティスバーグにある国立戦没者墓地の奉献式において、アメリカ合衆国大統領エイブラハム・リンカーンが演説を行った日のことです。一般的に「人民の、人民による、人民のための政治」の訳で知られる演説です。
〘中略〙
ゲティスバーグ演説は、272語1449字という約2分間の極めて短いスピーチであったにもかかわらず、リンカーンの演説の中では最も有名なものであり、また歴代大統領の演説の中でも常に第一に取り上げられるもので、独立宣言、合衆国憲法と並んで、アメリカ史に特別な位置を占める演説となっています。この日ゲティスバーグにはカメラマンもいましたが、マイクロフォンなどがない時代、リンカーンの演説が始まってもカメラマンはそれに気づかず、ようやく気づいて写真を撮ろうとした頃には、もう演説が終わっていたといいます。(樽屋雅徳)
今回のピックアップ楽曲紹介
今回紹介した大編成版とRevised Editionの楽譜情報です。スタディスコアや収録CDも合わせてご紹介します。
大編成版
- 演奏形態: 吹奏楽大編成(37人~)
- グレード: 4+
- 演奏時間: 9分17秒
- FML-0195(フォスターミュージック)
- 発売日: 2017/5/18
Revised Edition
- 演奏形態: 吹奏楽小編成(23人~)
- グレード: 4+
- 演奏時間: 6分53秒
- FML-0241(フォスターミュージック)
- 発売日: 2019/1/23
『November 19』演奏動画紹介
YouTubeで公開されている団体の『November 19』演奏動画を集めました。たくさん演奏していただきありがとうございます!
こちらのページで紹介して欲しい、という団体様はぜひご一報ください→お問い合わせ
土気シビックウインドオーケストラ
霞ヶ浦高等学校吹奏楽部
この曲をもっと知りたくなったら
フォスターミュージックサイトには作曲家コメントのフルバージョンをはじめ、サンプルスコアダウンロード閲覧、編成詳細、修正履歴、公式YouTube音源動画など、曲に関する情報を網羅しています。
また、YouTubeで公開されている演奏動画団体の聴き比べができるものもあるので、演奏イメージ作りにもお役立ていただけます。是非ご活用ください。
吹奏楽を柱とした音楽出版社として2008年に設立いたしました。 「フォスター」という単語には、育てる・育成するといった意味があり、日本の吹奏楽をもっと元気に楽しく発展させていきたいという思いをこめています。みなさまのブラバンコンシェルジュとして、様々な情報を発信していきます。