2014年5月10日、吹奏楽界を代表する方が一人、旅立たれました。
作曲家、岩井直溥。享年90歳。
ポップス系の音楽を吹奏楽に編曲した作品が特に有名で、岩井自身が監修に当たった「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」では、編曲とともに指揮も担当。吹奏楽でポップスを演奏するという画期的な試みの先駆者として、吹奏楽界に新たな風を送り込みました。
吹奏楽経験者なら、大半の人が出場経験のある「全日本吹奏楽コンクール」。岩井はこの吹奏楽コンクールの課題曲を、全6曲作曲しました。吹奏楽コンクール課題曲でありながら、ポップス色の強い作品が目白押しとなっています。
では、それぞれの作品について、詳しく見ていきましょう。
1972年度課題曲:シンコペーデッド・マーチ「明日に向かって」
岩井の監修した「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」のこの年度に初めて発売されたため、この年度から、吹奏楽によるポップス演奏が本格的にスタートしたといえます。この年の全日本吹奏楽コンクールでは、審査集計の間に、岩井直溥指揮東京佼成ウィンドオーケストラによって「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」に収録されている作品の一部が演奏されたとのこと。
課題曲をはじめ、吹奏楽によるポップス演奏の夜明けの年になったといえるでしょう。
1975年度課題曲:ポップス・オーバーチュア「未来への展開」
岩井作曲の課題曲では、初めてドラムセットが使用された作品です。
1976年度課題曲:ポップス描写曲「メイン・ストリートで」
ある街のメイン・ストリートでの一日を音楽で表現した作品で、中野駅近くのブロードウェイ商店街が舞台であるとのことです(岩井談)。「夜明け→朝→昼→夜」という時間経過を表現しており、全体的に落ち着いた感じのポップス調の作品。
トランペットで車のクラクションを表現するなど、メイン・ストリートの雰囲気を楽器の音色で醸し出しています。吹奏楽コンクール課題曲では珍しい、エレキベースとドラムセットを使用。
1978年度課題曲:ポップス変奏曲「かぞえうた」
題名の通り「かぞえうた」を主題とした変奏曲であり、ボサノヴァ風のリズムを用いています。全体を通し、演奏表現は日本語表記。フリューゲルホルンのソロがあり、「Fake」の表記があります(つまり、ちょっとしたアドリブで演奏してもよいということ)。楽器編成にエレキベースとドラムセット有り。
1989年度課題曲:ポップス・マーチ「すてきな日々」
題名に「マーチ(行進曲)」とあるが、ミリタリー・マーチのような作風ではなく、むしろブロードウェイ・ミュージカルを彷彿とさせる雰囲気を持った作品。曲は6つの部分で構成されています。(楽譜にこの部分名の表記はありません)
曲の構成
- 序奏
- テーマ
- ミディアム・スウィング
- 第3のテーマ
- ミディアム・スウィング
- 最終テーマ
また、この作品にはテンポ指定がなく、各団体思い思いのテンポで演奏することができます。1989年の全日本吹奏楽コンクールの演奏でも、最速の演奏と最遅の演奏で1分弱の差があったとのこと。団体によって本当にカラフルな演奏がされたんですね。
2013年度課題曲:復興への序曲「夢の明日に」
全日本吹奏楽連盟委嘱作品。昨年吹奏楽コンクールに出場、もしくは客席で鑑賞した方は、まだ記憶に新しい作品なのではないでしょうか。
2011年3月11日、東北地方を中心に、非常に大きな大震災が人々を襲いました。たくさんの尊い命が奪われ、住む場所をなくした方も多数。人々の心にも大きな傷跡を残しました。この大震災の約一週間前、岩井は仙台で市民吹奏楽団合同バンドを指揮していました。そのため、この大震災の記憶は岩井の脳裏にも色濃く残り、一日でも早い復興を願って、今回の作品を完成させたとのこと。
生涯を通じて、ポップス曲の導入・伝播という形で吹奏楽の新たなる可能性を開花させた岩井直溥。彼の作品は、これからもたくさんの演奏者に演奏され、たくさんの聴衆の心を魅了していくことでしょう。
心より、ご冥福を申し上げます。
吹奏楽を柱とした音楽出版社として2008年に設立いたしました。 「フォスター」という単語には、育てる・育成するといった意味があり、日本の吹奏楽をもっと元気に楽しく発展させていきたいという思いをこめています。みなさまのブラバンコンシェルジュとして、様々な情報を発信していきます。