フォスターミュージックの人気吹奏楽曲の中から、版が複数ある楽曲にクローズアップして違いを徹底解説するシリーズ企画。今回は「斐伊川に流るるクシナダ姫の涙」(作曲:樽屋雅徳)です。
「斐伊川に流るるクシナダ姫の涙」には最初に最初に出版された中編成版、小編成版、大編成版[2022年版]があります。
この記事では、それぞれの版の編成・人数、演奏時間、グレードについて比較に加えて、版元ならではの情報もお届けします!どちらの楽譜を選ぼうか迷われている方は、ぜひ最後までご覧ください。
「斐伊川に流るるクシナダ姫の涙」はどんな曲?
この曲には、最初に作曲された中編成版の他に、オーケストレーションを変更し少人数でも演奏できるようにした小編成版。そして、2022年に加筆修正された大編成版[2022年版]があります。大編成版では、中編成版に新しい部分が追加されて続編のような形になっています。
出雲神話「ヤマタノオロチ退治」より、ヒロインであるクシナダ姫にスポットを当てた楽曲で、美しき姫の悲しき運命とスサノオとの愛を情感豊かなメロディとハーモニーで奏でます。曲名に「涙」とあるように「泣ける曲」としてコンクール自由曲としても人気の高いナンバーです。
クシナダ姫を描いた女性的なしなやかで優美な世界観と対比するスサノオとヤマタノオロチの戦いは、木管パートの凄烈なメロディラインと力強いサウンドの金管パートがダイナミックに表現。まるで映画やドラマを見ているかのような樽屋氏ならではのドラマティックな展開の楽曲です。
歌舞伎で使用される附け打ちや、締め太鼓などの和楽器が多く採用されたパーカッションなどによって表現される和風な曲調も特徴です。
編成(演奏人数)は?
大編成版[2022版](38人〜)、中編成版(33人〜)、小編成版(23人〜)があります。団体の人数編成に合わせて最適なものを選びましょう。
大編成版[2022版](38人〜)
ピッコロ/フルート(1〜2)/オーボエ/イングリッシュホルン/バスーン/クラリネット(E♭、B1〜3、アルト、バス、コントラバス))/サクソフォン(ソプラノ、アルト1〜2、テナー、バリトン)/トランペット(1〜3)/ホルン(1〜4)/トロンボーン(1〜3)/ユーフォニアム/テューバ/弦バス/ピアノ/ハープ/パーカッション(1〜6)
◯主要ソロ:フルート 、ソプラノサックス
◯B♭トランペット最高音:A
中編成版(33人〜)
ピッコロ/フルート(1〜2)/オーボエ/バスーン/クラリネット(B♭1〜3、バス)/サクソフォン(アルト1〜2、テナー、バリトン)/トランペット(1〜3)/ホルン(1〜4)/トロンボーン(1〜3)/ユーフォニアム/テューバ/弦バス/ピアノ/ティンパニ/パーカッション(1〜5)
◯主要ソロ:フルート、アルトサクソフォン、B♭クラリネット
、◯B♭トランペット最高音:A
小編成(23人〜)
ピッコロ/フルート(1〜2)/オーボエ/クラリネット(B1〜2、バス)/サクソフォン(アルト1〜2、テナー、バリトン)/トランペット(1〜2)/ホルン(1〜2)/トロンボーン(1〜2)/ユーフォニアム/テューバ/弦バス/ピアノ/パーカッション(1〜3)
◯主要ソロ:フルート、アルトサクソフォン、B♭クラリネット
◯B♭トランペット最高音:A
詳細編成表を見比べる
セクション | 大編成[2022版](38人〜) | 中編成(33人〜) | 小編成(23人〜) |
---|---|---|---|
Flute | Piccolo 1,2 | Piccolo 1,2 | Piccolo 1,2 |
Oboe | 1 | 1 | (optional) |
English Horn | 1 | ー | ー |
Bassoon | 1 | 1 (optional) | ー |
Clarinet | Eb Clarinet Bb 1,2,3 Alto Clarinet Bass Clarinet Contrabass Clarinet | Bb 1,2,3 Bass Clarinet | Bb 1,2 Bass Clarinet |
Saxophone | S,A2,T,B | A2,T,B | A2,T,B |
Trumpet | 1,2,3 | 1,2,3 | 1,2 |
Horn | 1,2,3,4 | 1,2,3,4 | 1,2 |
Trombone | 1,2,3 | 1,2,3 | 1,2 |
Euphonium | 1(div) | 1 | 1 |
Tuba | 1 | 1 | 1 |
String Bass | 1 | 1 (optional) | 1 |
Percussion | Timpani 1,2,3,4,5,6 | Timpani 1,2,3,4,5 | 1,2,3 |
*使用楽器 | Percussion 1 Suspended Cymbal, Claves, Tam-tam, Brake Drum or ちゃんちき, Whip Percussion 2 Wind Chimes,Bass Drum Percussion 3 Cymbals,Bongos, 附け打ち Percussion 4 Glockenspiel, Triangle, Finger Cymbal, Vibraphone, Cymbals, Sleigh Bell, Tam-tam Percussion 5 Xylophone(Optional) Percussion 6 Marimba(Optional) | Percussion 1 Claves, Cymbals, Tam-tam, Brake Drum(or ちゃんちき), Sleigh Bells(鈴), Suspended Cymbal Percussion 2 Vibraphone, Glockenspiel, Cymbals, Sleigh Bells(鈴), Xylophone, Tam-tam Percussion 3 Bass Drum(or Taiko Drum), Sleigh Bells(鈴) Percussion 4 Glockenspiel, 附け打ち*, Bongos(or 締太鼓), Cymbals Percussion 5 (Wind Chimes, Cymbals, Finger Cymbals, Triangle, Whip | Percussion 1 Wind Chimes, Timpani, Finger Cymbals, Triangle, Tam-tam Percussion 2 Vibraphone, Suspended Cymbal, Claves, Glockenspiel, 和太鼓(or Bass Drum), Bass Drum, 神楽鈴(or Sleigh Bells), Tam-tam Percussion 3 Glockenspiel, Bass Drum, 締太鼓(or Bongo), 和太鼓(or Bass Drum), Claves, ちゃんちき(or Brake Drum), 附け打ち, 神楽鈴(or Sleigh Bells), Suspended Cymbal |
ほか | Piano Harp | Piano | Piano |
グレード(難易度)は?
大編成版[2022年版]はグレード3+、中編成版はグレード4、小編成版もグレード4となっています。加筆修正された2022年版では曲構成が再考され、大編成ながら演奏しやすいように編み直されています。
演奏時間は?
参考時間として大編成版[2022年版]は7分10秒、中編成版は8分39秒、小編成版は8分52秒となっています。吹奏楽コンクール自由曲として演奏する場合には、大編成版は最適な長さです。中編成版と小編成版は制限時間の都合によりカットを施す際は編曲申請をしましょう。
→編曲利用手続きページへ
楽曲解説
中編成・小編成版について
まず最初に出版された中編成版と、編成のみを縮小した小編成版について解説します。
島根県と鳥取県の間を流れる斐伊川。出雲国風土記では「出雲大川」と記されている穏やかな大河にそよぐ風のような美しいウィンドチャイムとピアノに導かれたフルートのソロから曲は始まります。切なさを帯びたメロディーを奏でる木管パートの柔らかな音色が次第に厚さを増していきます。
そしてリズミカルなメロディーで場面転換。天から降りたスサノオが闊歩する姿を彷彿させます。再び、アルトサックスソロからヤマタノオロチの生贄となる自らの悲しい運命に暮れるクシナダ姫を心情を表すターンへ。1st&2ndフルートの美しく印象的なソリは頬を伝う涙のように切なさを帯びています。
クシナダ姫の涙に奮起し、ヤマタノオロチに戦いを挑むスサノオ。戦いの幕開けをパーカッションと金管パートがダイナミックに強弱の差で表現。刻々と移り変わる戦況を表すようにスサノオの力強さとクシナダ姫のしなやかさが交互に入れ替わりを繰り返します。全ての管楽器の音色が混ざり合う華やかな場面は、聴く者の琴線に触れるこの曲の山場です。
クラリネットソロを号令にフィナーレへ。もう一度スサノオとヤマタノオロチの凄烈な戦いが想起されるような力強い旋律から、全ての管楽器のユニゾンで賑々しく幕を閉じます。
中編成と小編成で悩む場合、ポイントとなるのはパーカッションです。
パーカッションの種類が充実している/パーカッションパートの人数が多い団体は、まず中編成版をご検討ください。
逆にパーカッションが限られている場合は、まず小編成版をご覧いただくことをお勧めします。
場面転換が豊富なためテンポが変化したり変拍子が登場したりすることも特徴です。ストーリー性があり場面転換が豊富な曲なので、演奏している場面の情景を思い浮かべながら演奏しましょう。
2022版(大編成版)と中編成・小編成版との違い
2022年の作曲にあたり、作曲者の樽屋雅徳さんはこのように述べています。
2022年版は、2013年に作曲された中編成版をもとに加筆修正した改訂版です。新しい部分の追加にあたっては、原曲のイメージからかけ離れたものにならないようしながら、やや難易度を抑え、中学生にも演奏しやすいように編み直しました。中編成版、小編成版の続編のような形を取っていますが、いずれも長く愛される作品となればこれほど嬉しいことはありません。(樽屋雅徳)
大編成版[2022版]は、旧作を聞いたことのある人の印象に残ってるであろうフレーズは活かしながら、構成が大胆に編み直されています。
フルートソロの奏でるクシナダ姫のメインフレーズで幕があがります。
この版も、場面転換は豊富です。美しく静やかなシーンと力強く躍動的ななシーンが交互に登場します。大編成だからこその厚みのあるハーモニー、木管と金管のオブリガートも印象的です。
スサノオとヤマタノオロチの凄烈な戦いの情景は、速いテンポで行われる木管楽器の緊張感がある激しく早いパッセージと低音楽器の力強い打ち込みで表現され、中編成・小編成版よりも力強さと勇ましさが増している印象です。
ソプラノサックスのソロからフィナーレへ。木管パートの1player指定の儚げな旋律から力強い金管パートも加わったユニゾンへとダイナミックな変貌を遂げます。
クシナダ姫の美しさとしなやかな強さ、スサノオのエネルギッシュさが伝わってくる楽曲です。
2022年版は、中編成版/小編成版の”続編”という位置づけのため、曲そのものが異なります。
大編成での演奏が可能なバンドは、聴き比べてお好きなほうを選んでみるのがお勧めです。
作曲者は?
樽屋雅徳(Taruya Masanori)プロフィール
作曲者のライナーノーツ(抜粋)
古事記上巻に記される出雲神話「ヤマタノオロチ退治神話」より、物語のヒロイン、クシナダ姫にスポットを当て曲を描いています。
ヤマタノオロチ退治神話とは、海の神スサノオが、クシナダ姫を守るため、八つの頭に八本の尾を持つ大蛇ヤマタノオロチを退治するお話です。(樽屋雅徳)
楽譜/音源/動画等のご紹介
今回紹介した大編成版[2022年版]、中編成版と小編成版の楽譜情報です。スタディスコアや収録CDも合わせてご紹介します。
大編成版[2022年版]
- 演奏形態: 吹奏楽大編成(38人~)
- グレード: 3+
- 演奏時間: 7分10秒
- FML-0310(フォスターミュージック)
- 発売日: 2022/3/24
中編成版
- 演奏形態: 吹奏楽中編成(33人~)
- グレード: 4
- 演奏時間: 8分39秒
- FML-0102(フォスターミュージック)
- 発売日: 2013/3/13
小編成版
- 演奏形態: 吹奏楽小編成(23人~)
- グレード: 4
- 演奏時間: 8分52秒
- FML-0176(フォスターミュージック)
- 発売日: 2016/10/20
「斐伊川に流るるクシナダ姫の涙」演奏動画紹介
YouTubeで公開されている「斐伊川に流るるクシナダ姫の涙」演奏動画を集めました。
たくさん演奏していただきありがとうございます!
こちらのページで紹介して欲しい、という団体様はぜひご一報ください→お問い合わせ
海上自衛隊東京音楽隊
WISH Wind Orchestra
フィルハーモニック・ウィンズ 大阪
この曲をもっと知りたくなったら
フォスターミュージックサイトには作曲家コメントのフルバージョンをはじめ、サンプルスコアダウンロード閲覧、編成詳細、修正履歴、公式YouTube音源動画など、曲に関する情報を網羅しています。
また、YouTubeで公開されている演奏動画団体の聴き比べができるものもあるので、演奏イメージ作りにもお役立ていただけます。是非ご活用ください。
吹奏楽を柱とした音楽出版社として2008年に設立いたしました。 「フォスター」という単語には、育てる・育成するといった意味があり、日本の吹奏楽をもっと元気に楽しく発展させていきたいという思いをこめています。みなさまのブラバンコンシェルジュとして、様々な情報を発信していきます。