まず何て読むの?という人も多いのではないでしょうか。記事のタイトルにも読み仮名をつけましたが、「ひりゅうのくぐい」と読みます。
さて、この「飛龍の鵠」(原典版)は、2015年に作曲され、同年の全日本吹奏楽コンクールにて市立銚子高等学校(指揮:樽屋雅徳)が東関東大会にて金賞、鏡野吹奏楽団(指揮:弘田靖明)が全国大会にて銅賞を受賞し、2016年5月に出版されました。
初演から2年後の2017年に作曲者自身による大幅な改訂が加えられ、同年の全日本吹奏楽コンクールにて市立銚子高等学校(指揮:樽屋雅徳)が演奏し、第17回東日本学校吹奏楽大会にて金賞を受賞しました。
その後、出版にあたり編成などを再編し「飛龍の鵠 改訂版」として2018年に出版されました。
下記は作曲者樽屋雅徳によるライナーノーツです。
今では多様な文化が混在する日本ですが、かつては鎖国で日本独自の文化を貫いており、その分岐点として明治維新、文明開化があげられます。この文明開化を皮切りに西洋の文化が取り入れられ、現在に至っています。
文明開化は、西洋の新たなしきたりを取り入れ日本に進化の希望ももたらしましたが、さまざまな思惑があり、急激な近代化を渋る国民も多く、難航したと言われています。
そんな中で、明治の文明開化の一線に立ち、主張し続けた英雄たちが複数存在しました。彼らは、「今」だけではなく日本の未来を見据え、文明開化に尽力し続けたのでした。
タイトルは、英雄を意味する「飛龍」、弓の的や目的を意味する「鵠」をかけ合わせて、明治の偉人たちが見ていた未来、すなわち「先見の明がある偉人たちの的」という意味を込めて「飛龍の鵠」としました。曲も、この明治の背景を思い浮かべながら、和と洋が混在するようなつくりにしています。
「飛龍」とは、読んで字の如く“空を飛ぶ竜”という意味もありますが、「飛竜雲に乗る」というように、賢者や英雄が時勢に乗って才能を存分に発揮するたとえにも使われ、英雄そのものを指す言葉としても使われています。響きもカッコイイので船舶、鉄道、航空機から企業の名前としてもしばしば使われています。
いっぽう「鵠」は、白鳥を指す漢字でもありますが、「正鵠を射る」という表現にもあるように、まと、的の中心という意味を持っており、作者はこちらを意図してタイトルに使っています。
ひりゅうのくぐい・・・響きの格好良さもさることながら、竜と白鳥がかけ合わされていながら、まったく別の意味を持つタイトルというところもまた魅力的ですよね。
樽屋雅徳「飛龍の鵠」
さて、早速楽譜をご紹介していきましょう。
現在、「飛龍の鵠」は、原典版と改訂版の2版がレンタル譜として出版されています。
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飛龍の鵠
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飛龍の鵠 改訂版
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楽器編成による違い
まずは編成表を見てみましょう。
原典版 | 改訂版 | |
---|---|---|
パート数 | 38 | 26 |
木管 | Piccolo | – |
Flute 1 | Flute 1 (doub. Piccolo) |
|
Flute 2 | Flute 2 | |
Oboe 1 | Oboe (doub. C.A.) |
|
Oboe 2 | – | |
Bassoon | Bassoon | |
Eb Clarinet | – | |
Bb Clarinet 1 | Bb Clarinet 1 | |
Bb Clarinet 2 | Bb Clarinet 2 | |
Bb Clarinet 3 | – | |
Alto Clarinet | – | |
Bass Clarinet | Bass Clarinet | |
Contrabass Clarinet | Contrabass Clarinet (optional) | |
Soprano Saxophone | Soprano Saxophone (doub. Alto Saxophone 1) |
|
Alto Saxophone 1 | – | |
Alto Saxophone 2 | Alto Saxophone 2 | |
Tenor Saxophone | Tenor Saxophone | |
Baritone Saxophone | Baritone Saxophone | |
金管 | Trumpet 1 | Trumpet 1 |
Trumpet 2 | Trumpet 2 | |
Trumpet 3 | – | |
Horn 1 | Horn 1 | |
Horn 2 | Horn 2 | |
Horn 3 | – | |
Horn 4 | – | |
Trombone 1 | Trombone 1 | |
Trombone 2 | Trombone 2 | |
Trombone 3 | – | |
Euphonium | Euphonium | |
Tuba | Tuba | |
String Bass | String Bass | |
打楽器 | Timpani | Crotales, Timpani |
Percussion 1 (Vibraphone, Anvil, 4 Tom-toms, Snare Drum,Tam-tam) |
Percussion 1 (Glockenspiel, Anvil, Tambourine, Suspended Cymbal, Tam-tam, Vibraphone) |
|
Percussion 2 (Bass Drum) |
Percussion 2 (Sizzle Cymbal, Tam-tam, Suspended Cymbal, Anvil, 4Tom-toms, Snare Drum, Marimba) |
|
Percussion 3 (Tam-tam, Suspended Cymbal, Marimba,Crotales) |
Percussion 3 (Whip, Bass Drum) |
|
Percussion 4 (Glockenspiel, Tambourine, Crash Cymbals) |
– | |
ほか | Harp | Harp |
Piano | Piano |
ピアノとハープが使われているものの、改訂版は原典版より12パートも少なくなっており、小編成でも挑戦しやすい編成になっているのではないでしょうか?
構成の違い
最初の1小節目から原典版と改訂版は異なっておりますので、編成の違いよりも構成の好みで選んで頂ければと思います。
原典版 | 改訂版 | |
---|---|---|
演奏時間の目安 | 8分30秒 | 8分10秒 |
小節数 | 225小節 | 196小節 |
それでは、詳しく見てみましょう。
飛龍の鵠 冒頭の違い
クリックするとそれぞれ拡大表示されます。
飛龍の鵠 原典版ではフルートのソロが2小節目から始まっているのに対し、改訂版は1小節目から始まります。あとに続くオーボエのソロが入るタイミングも改訂版では1小節早く、改訂版の方では最初のダブルバーまでが2小節短くなっています。
改訂版練習番号「A」からは、フルート、オーボエ、バスーンパートが大幅に変更されており、デュエットでメロディを奏でていきます。
飛龍の鵠 中間部の違い 1
飛龍の鵠 原典版の練習番号「D」から「E」の部分は改訂版ではカットされ、練習番号「F」が改訂版の「E」となっています。
飛龍の鵠 中間部の違い 2
速い変拍子部分のあと、原典版ではソプラノサックスのソロとサックスアンサンブルでしたが、改訂版ではフルートソロとなっています。
飛龍の鵠 後半の違い
原典版練習番号「N」〜、改訂版練習番号「M」〜にも7,8小節目あたりに構成の違いが見られます。
ラストの部分は改訂版にピアノとハープが加えられています。
まとめ
以上、原典版と改訂版の大きな違いについてご紹介致しました。
細かなオーケストレーションの差異などについては省略させていだきましたが、ホームページのスコアサンプルなども参考にしてお選び頂ければと思います。
飛龍の鵠
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参考音源
「飛龍の鵠」の参考音源については、残念ながら原典版のフル音源がなく、改訂版のみご紹介いたします。
ほか、カットなどの都合で楽譜と異なる部分がありますが、東日本大会での市立銚子高等学校の演奏と2015年の鏡野吹奏楽団の演奏をご紹介致しますので参考にしてみてください。
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ワコーバンドコレクション2018演奏: フィルハーモニック・ウインズ 大阪 ( Philharmonic Winds OSAKAN)
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編集後記「飛龍の鵠」徹底解説、いかがだったでしょうか?少しでも選曲のお役に立てば幸いです。その他質問などもお気軽にどうぞ。 |
吹奏楽を柱とした音楽出版社として2008年に設立いたしました。 「フォスター」という単語には、育てる・育成するといった意味があり、日本の吹奏楽をもっと元気に楽しく発展させていきたいという思いをこめています。みなさまのブラバンコンシェルジュとして、様々な情報を発信していきます。